投資信託は「ほったらかしてはいけない」
日本のファンドはなぜ多い??
日本には追加型の投信だけで2000とか3000もあると言われていますが、そもそも投資信託の目標が、純粋に「信託財産の成長を目指す」、言い換えれば「顧客=投資家を儲けさせる」ということであるなら、どうしてこんなに数多くのファンドがあるのか、納得のいく説明をすることは困難です。
何故なら、純粋に「証券投資で儲け、損失を限定する」ことが目的なら、そのための手段なり方法が、そんなにたくさんあるとは思えないからです。「いや、十人十色の方法があるのだ」と言われれば、それはそうかも知れませんが、人それぞれに自分がベストだと思う方法を追求するからこそ、とるべき方法は必然的に一つか二つに絞られて来るのではないでしょうか。
つまり、「ベスト」というのは「少数に絞り込む」ことによってベストとなるわけであって、投信会社それぞれが「これが、顧客=投資家の財産を増やすためのベスト・ファンドだ」と信じて設定しているなら、一つの投信会社が設定する投資信託の数はどうしても限られてくるはずです。
従って、いくら大手だからといって、100も200もファンドを設定しているのは、そこに別の理由があるとしか思えません。
「投資家を儲けさせるのが目的ではない」
このファンド数の多さは、金融機関にとって「投資信託の目的」が、「投資家を儲けさせることではない」と考えなければ、どうしても説明が付かないのではないでしょうか。
本当に投資家を儲けさせたいのなら、結局のところごくごくシンプルな方法に落ち着かざるを得ないと思われます。すなわち、株式にしろ債券にしろ、安値で買って高値で売るのが原則です。しかも、一般的には、株が高くなる時期と債券が高くなる時期は異なり、逆の相関があると言われています。つまり、株が高ければ債券は安く、債券が高ければ株は安いのです。
従って、株価が高いときにこれを売って安い債券を買い、その債券が高くなればこれを売って安くなった株を買う。その株が高くなればまた売って安い債券を買う・・・ということを単純に繰り返せば、信託財産=投資家の資産はどんどん増えて行くはずです。
ところが、現実には、どういうわけか、そんな運用をしているファンドにはめったにお目にかかれません。
持っていても仕方がないファンド群
あるのは、単純に「株ばかり」のファンドや「債券ばかり」のファンドです。あるいは、株式の割合を90%、70%、50%、30%などとほぼ固定しているファンドです。こういうファンドは、株式市場が下がれば必ず下落します。相場が下がったときには、株式を90%組み入れたファンドは下げがきつく、30%であったファンドはそれほどでもないというだけの違いであって、どちらも下落することに違いはありません。
こんなものは、相場が調子よく上がっているときは良いが、そうでないときに持っていても仕方がないではないですか。
繰り返しますが、純粋に「投資家の資産を増やす」ことが目的なら、株式市場が安値圏にあるときには株式の組み入れ比率が高く、これが上がれば高値で売って、安い債券を買うというように、株式と債券の比率を市況にあわせて大きく変える(これを「アセット・アロケーションの機動的転換」と言います)ことがベストであると考えられます。
それなのに、そのようなファンドがないのは何故なのでしょうか。
金融機関の都合
これは、単純に言って、いろんな商品があった方が、投信の販売会社(銀行や証券会社など)にとってマーケティングがし易いということでしょう。
「アセット・アロケーションの機動的転換」で資産を増やすということであれば、究極的にはそのタイミングの見極めがうまいファンドが一つか二つあれば十分だということになります。けれども、これではファンド・マネジャーの腕次第ということになり、優秀なマネジャーが突然いなくなったらにっちもさっちも行かなくなる危険があります。しかも優秀であるほど他社からの引き抜きの可能性も高まりますから、とりわけ大手としては「そんなものに頼ってはいられない」ということなのかも知れません。
これに対して、株式の組み入れ比率を90%、70%、50%、30%などと固定するだけで4種類の商品ができますし、固定した方が商品の性質が明確で、顧客への説明もしやすいのです。さらに、商品の数が多ければ、ある商品のパフォーマンスがよくないときに、別の商品を勧めることもできます。
おそらくこういう理由で、株式の組み入れ比率のパターンを変えたり、ベンチマークをTOPIXとか日経平均とか東証二部指数とか様々に変えたり、あるいは業種別、テーマ別の商品を設けることで、いくつものファンドが設定されて行くのでしょう。
日本のファンドは変わらない
こういう様々のファンドというのは、その「目論見書」にあるように、運用方針に一定の制限がありますので、なかなか「機を見るに敏」という調子では運用されません。相場が下がったときにつられて下がり、ずっと元本割れということも珍しくありません。
2005年夏頃から、株式市場は活況を呈し、投資への関心が高まっていると言われていますが、このような「投資信託」の事情は、これからも変わらないでしょう。つまり、ほとんどの投資信託が純粋に「顧客=投資家を儲けさせる」ことを目標とする商品ではないという現実は、今後しばらく変わらないであろうと思われます。何故なら、これが変われば銀行や証券会社が儲からなくなるからです。
日本で、日本の金融機関を通じて投資する一般人としては、この現実を受け入れる以外にはありません。そして、「株式投資のリスク」を避け、同時に「預金金利」以上のリターンを得たいと思うなら、この現実のなかでうまく泳いで行くしかないわけです。
「日本の現実の中でうまく泳ぐ」とは、言い換えるなら、「さほど儲からないように設計されている」商品で儲かるように工夫を凝らさなければならない、という意味です。すなわち、投資信託といえども、「ほったらかしてはいけない」ということなのです。
「アセット・アロケーションの機動的転換」
では、どうするか。別に、基準価格を毎日チェックする必要はありません。
数ヶ月に1度、あるいは1年に1度、そのときの景気の動向を見て、株式投信と債券投信の比率をチェックするのです。つまり、「アセット・アロケーションの機動的転換」をファンドがやってくれないので、自分でやってみるのです。
一般的には、景気回復期には株式の比率を高め、景気が天井に近いところで一部または全部を現金化して、この現金で景気後退期に債券の比率を高めるというのが基本です。つまり、「アセット・アロケーションの機動的転換」を行なうには、個々の株式銘柄などには興味がなくとも、景気の動向くらいには気を配った方がいいということです。
あるいは、もっと単純に、株式と債券の比率が元に戻るように調整するという方法もあります。例えば、当初、株式と債券を1対1で持っていた場合に、株式の上昇により比率が2対1になったとすれば、株式を0.5売って債券を買い、比率を1.5対1.5、すなわち1対1に戻すということです。これもそれなりに効果のある方法であり、タイミングの見極めにさほど気を使わなくても済むという点で初心者にはお勧めですが、資産運用の効率としては「アセット・アロケーションの機動的転換」の方がすぐれているという気がします。
「日本の投資信託」の限界
ただし、一般に日本の投資信託は手数料が高いので、アセット・アロケーションを切り替える目的で、あるファンドを売り、別のファンドを買えば、その分だけ手数料がかさみ無駄なコストがかかることは覚悟しなければなりません。
また、成績の良くない投資信託の場合は安値のまま償還されることもしばしばありますので、その場合は損失が確定してしまいますし、償還された資金で別のファンドを買う場合は手数料が新たにかかったりします。
このような無駄なコストは、運用の成績が多少よくても無視できるものではありませんが、日本のように「投資家よりも販売会社の利益が優先される」国で投資信託を買う場合には、なかなか避けて通れないものです。
ただし、ある程度以上の資産を運用する場合は、スイスのような投資・金融の先進国のプライベート・バンクで一任勘定などのサービスを受けると、このようなコストを避けることが可能です。
この場合も、プライベート・バンクに一任するといっても、単にほったらかしにするのではなく、やはり景気の動向にあわせて一任勘定の「リスク許容度」を変えたり(景気上昇期には「リスク許容度」を高め、景気後退期に低める)、場合によっては預金の比率を増減したりすることによって、アセット・アロケーションを切り替えれば、より効果的な運用が可能となるでしょう。
金融機関の「食い物」にならないために
投資への関心が高まっているとはいっても、日本は、まだまだ「投資家の利益が重視されない」投資後進国であるように思われます。とりわけ、投資信託の顧客=投資家は、「投資の素人」とみなされがちであって、金融機関の「食い物」にされる可能性は(以前ほどではないとしても)まだかなりあるのではないでしょうか。
「プロの運用」の恩恵が受けられるとされ、一般的には「株式投資ほどの勉強は必要ない」とされる投資信託ですが、とりわけ日本で資産を運用しようとするなら、投資信託の投資家であっても、否、投資信託の投資家だからこそ、「自らの資産を守る」ための勉強が必要となるのだと言わざるを得ません。
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