投資信託「目論見書」を読む
「目論見書を必ずご覧下さい」の意味
現在、投信の販売会社は、投資家に目論見書を交付しなければ投信の販売ができないことになっています。投資家も一応これを読んだことにしておかないと投資信託を購入することはできません。
そこで、投資信託の「目論見書」に目を通してみますが、これは、普通の人が読んだら苦痛を覚えるか、眠くなるに違いないものです。この世の中に、これほど詰まらない本があるかと思われるほどのもので、小説やエッセイのように「読ませる」ことが目的でないことは明らかです。
それなのに、広告や販売用資料に「詳しくは目論見書を必ずご覧下さい」と書いてあるのは、金融機関がトラブルを避けるための「言い訳」のようなものです。つまり、「読めと言ったのに読まなかったとしたら、それはあなたの責任です。うちではあなたが読んだものとして扱います。後になって『こんなはずではなかった。そんなことは聞いていない』と言われても一切関知しません」という意味なのです。
目論見書で最も重要な点とは
では、このつまらない「目論見書」の、どこをどう読んだら良いのでしょうか。参考までに、代表的な投信評価会社「モーニングスター」のサイトにある投資信託講座を見てみましょう。これによれば、目論見書で最も重要な点は、なんと「ファンドの名称」(!!)だということです。
確かに、ファンドにはその特徴をよく表している名前が付けられており、例えば、「XXグロース・ファンド」のような名前が付いていれば、「成長株」に投資するファンドだということくらいは分かります。しかし、投資信託の名称を知るだけなら、わざわざ目論見書を調べる必要はありませんし、そもそも「成長株投資」というものが何か知らなければ、名称だけ知っていてもあまり意味はないでしよう。
私見では、目論見書で、特に注目するべき箇所は、「ファンドの概要」、「投資方針」、「投資対象」あたりではないかと思います。リスクの説明や解約等の手続きについて記載している箇所も重要なのですが、オープン(追加)型の株式投信など、大まかな分類が同じであれば、手続きはほぼ共通しているので、目論見書を何冊か読めば、大体の想像は付くようになります。これに対して、「ファンドの概要」、「投資方針」、「投資対象」などには、個々のファンドの特徴が出ますので、繰り返し熟読するに値します。
複数の目論見書を比較してみる
このときお勧めなのが、一つのファンドの目論見書だけを眺めるのではなく、複数の投信の目論見書を比較しながら読んでみることです。目論見書の文章はあまりに素っ気ないので、細かくつき合わせて違いを確かめなければ、どれも同じような感じがしてしまうからです。
そうすると、「投資方針」といっても、それぞれのファンドで微妙な違いがあることがわかります。
例えば、あるファンドでは「株式市場全体のパフォーマンスを上回ることを目指す」となっています。これに対して、別のファンドで、「信託財産の成長を目指す」と書かれているとすれば、その「違い」が実際にどんなことを意味するかについて、じっくりと考えてみる必要があります。
そこで、上の例の場合、「株式市場全体のパフォーマンスを上回ることを目指す」という意味をよくよく考えてみれば、極端な話、このファンドは少なくとも直接的には「信託財産の成長を目指しているわけではない」ということに気が付くでしょう。
何故なら、「株式市場全体」が必ずしも成長するわけではないことは、過去のバブル崩壊の経験からみても明らかだからです。
投資家に損をさせる「優秀ファンド」
つまり、このファンドが「株式市場全体のパフォーマンスを上回る」ことを目指している限り、株式市場全体が下がっているときに、ファンドの基準価額が下がっているのは仕方がないことであり、受け入れるべきことなのです。あくまで「株式市場全体のパフォーマンスを上回る」ことが目標なのですから、市場全体が10%下がっているときに、ファンドの下げが9%にとどまっているなら、このファンドは目標を達し、「成功」しているということになります(しかし、いずれにしても、信託財産が損なわれ、投資家が損失を被っていることには違いありません)。
実は、この例のように、投資信託には、信託財産の成長を直接には「目指していない」ものが非常に多いのです。多くのファンドは、日経平均とかTOPIXなどの特定の指標(ベンチマーク)を設定して、それを上回る成績を目指していますが、日経平均やTOPIXなどは当然下がることがあります。つまり、ベンチマーク自体に下落リスクがあります。「ベンチマークを上回ることを目指す」などと言っても、ベンチマークが大きく下げているときに、ファンドが上昇していることなど、まずないのであって、それどころか、(銀行や証券会社主催のセミナーなどではまず聞かれませんが)ベンチマークに勝つファンド自体が少数派に止まっているという厳然たる事実があります。
「プロの運用」とは何か
おそらく、投資信託を購入する投資家の多くは、株式の個別銘柄への投資などについての知識や経験はさほどない場合が多いと思われます。個別の株式への投資は文字通りのハイリスク・ハイリターンですから、個別株投資ほどのリスクをとりたくはないが、それなりのリターンは欲しいと思われる方が投資信託に関心をもつと考えられます。そのような、いわば「半可通」である人々が、投資信託の利点としてよく言われる「プロの運用」という言葉を聞けば、どんなことを連想されるでしょうか。何の説明もなければ、書店の店頭に並んでいるような『株で1億円作った』というようなものを「プロの運用」だと思われるかも知れません。1990年代の相場低迷期に「5万円のミニ株から初めて1億円作った」というのは極端な例であるとしても、プロなのだから「相場の下落局面でも上がる株を見つけてくれる」ように期待される可能性もあります。しかし、実際には過半数のファンドが「平均値にも届かない」のが現実であり、相場全体が下がっているときには、当然ながらファンドも下がるのです。
投資信託が下がる理由
これは考えてみれば当たり前のことであって、その理由も実は「目論見書」に書いてあります。
例えば、あるファンドの「投資方針」をみると、「株式の組み入れ比率は90%以上とします」などと書いてあるわけです。
これは、ファンドに課せられた制約であり、ルールですから、ファンド・マネジャーはこの方針に拘束されます。「株式の組み入れ比率は90%以上」と決まっているのですから、高値ですべて売り抜けて、「その後、相場の低迷期が続くと見込まれるからその間は長期に現金にしておく」などということは出来ないのです。相場が上がろうが下がろうが、ほとんど常に「株式を90%以上」組み入れるという規則があれば、相場全体が下がったときにはファンドの基準価格もつられて下がるに決まっています。
つまり、こういう規則のあるファンドというのは、「株を持つべきでないときでも持たなければならない」という宿命にあって、本来は休んだ方が良いときでも休めません。
しかも、株式投資信託のほとんどすべてが同じようなルールの下に運用されています。従って、投信をたまたま株高の時に買った投資家は、ほとんど例外なく損を被るのです。
客観的であることを旨とする「目論見書」に書いてあるのは株式の「組み入れ比率」くらいで、「このファンドは株式の組み入れ比率が高いから相場の下落局面で大きな損失が出る可能性がある」というような踏み込んだ記述はないかも知れませんが、組み入れ比率の数字にはそのヒントが隠されているというわけです。
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